
確定申告をしないとどうなる?ペナルティや対処法、申告が必要な人を徹底解説【税理士監修】
もし1年間の医療費が一定額を超えた場合、「医療費控除」を活用して、支払った医療費に応じて税金の負担を軽くすることができます。
しかし、「どの医療費が対象になるの?」「いくら戻ってくるの?」「手続きはどうすればいい?」と疑問に思う人も多いでしょう。
この記事では、医療費控除の仕組みや申請方法、対象となる医療費、還付金の計算方法などをわかりやすく解説します。
医療費控除は、医療費を多く支払った人の、所得税や住民税の負担を軽減するための制度です。
税金の対象となる収入から、1年間に支払った医療費の一部を控除することで、支払う税金が減る仕組みになっています。
控除(こうじょ)とは
税金を計算する時に、収入から一定額を引くことで課税所得が減り、その分税金の負担が減る仕組みです。控除はさまざまな条件のものがあり、対象になる人は当てはまる複数の控除を利用することができます。
医療費控除をうけることで、1年間に支払った医療費の一部を、税金の計算から差し引くことができます。
主な特徴は以下の3点です。
医療費は、自分の分だけでなく一緒に生活している家族(=生計を共にする家族)の医療費も合計できるという特徴があります。
「扶養家族になっているかどうか」は関係なく、生活を共にしていれば合算OKです。
医療費控除を受けるためには、個人事業主や自営業の人だけでなく、すべての人に確定申告が必要になります。
特に、会社員やアルバイトなどの給与所得者は「年末調整」という手続きで税金を計算しているため、確定申告をする人は少ないかもしれません。
しかし、医療費控除は年末調整ではできません。
そのため、医療費控除を受ける際は、会社員の人も自分で確定申告をすることになります。
医療費控除とは別に、「セルフメディケーション税制」という制度もあります。
これは、一部の市販薬を年間12,000円以上購入した場合に、税金の負担を軽くする仕組みです。
ただし、「医療費控除」と「セルフメディケーション税制」はどちらか一方しか使えません。
どちらの制度を使う方が得になるか、事前に確認することが大切です。
医療費控除を受けるには、1年間に支払った医療費が一定額を超える必要があります。
医療費控除の対象となるのは、年間の医療費の合計が10万円を超えた場合です。
たとえば、お父さんが5万円、お母さんが3万円、子どもが4万円の合計12万円の医療費を払った場合、10万円を超えた分の2万円が控除の対象になります。
ただし、所得金額が200万円以下の人は「年収の5%を超えた額」が控除の対象になります。
たとえば、所得金額150万円の人なら、「150万円 × 5% = 7万5千円」。この場合、1年間の医療費が7万5千円を超えたら控除の対象になります。
医療費控除を使うと、支払った税金の一部が還付されることがあります。
ただし、控除になる全額がすべて返ってくるわけではないので注意しましょう。
医療費控除額 = 1年間の医療費 - 保険金などの補助 - 10万円(または所得金額の5%)
たとえば、年間の医療費が15万円で、保険で2万円の補助があった場合、控除の対象になる金額は「15万円 - 2万円 - 10万円 = 3万円」となります。
還付金 = 医療費控除額 × 税率
たとえば、所得税率が10%の人なら、3万円 × 10% = 3,000円が還付される可能性があります。
この所得税率は、所得の金額によって変わります。
そのため、共働きの家庭では、夫と妻のどちらが申告するかで、還付金の金額が変わることがあります。
たとえば、夫の所得税率が20%、妻の所得税率が10%の場合、夫が申請したほうが税金の戻りが多くなる可能性があります。
どちらが申請すると節税になるか、事前に確認すると良いでしょう。
参照:国税庁「No.2260 所得税の税率」
医療費控除では、すべての医療費が控除の対象になるわけではなく、基本的には「病気やケガの治療に直接関係するもの」に限られます。
病気やケガを治すために医師や歯科医師の診察を受けたときにかかる費用
医師が処方した薬の代金や、入院にかかった費用
通院のための公共交通機関(電車・バス)の運賃
※ただし、タクシー代は原則として対象外。タクシーを使った場合でも、やむを得ない事情があれば、控除の対象になることもある。
妊婦健診、分娩、不妊治療など、妊娠や出産にかかった費用のうち、治療に関係するもの
医療機関以外でも、治療を目的とした施術や世話にかかった費用
例:
治療目的のマッサージ、はり、きゅう、柔道整復の施術代
看護師や介護士に支払う療養上の世話の費用
治療とは直接関係がないもの、または健康維持や美容目的のものは、基本的に対象外です。
医療費控除を受けるためには、1年間に支払った医療費を正確に把握することが大切です。
いくら使ったのかをきちんと確認し、必要な書類をそろえておけば、スムーズに手続きを進めることができます。
ここでは、医療費を正しく確認するための3つの方法を紹介します。
ひとつめは、病院や薬局でもらう領収書をすべて確認する方法です。
確定申告の際に確認できるように、1年間分の領収書をしっかり保管しておきましょう。
また、家族の医療費も合算できるため、家族が払った分の領収書も忘れずに集めておいてください。
もし領収書をなくしてしまった場合は、病院や薬局に頼めば再発行できることもあります。すぐに確認し、必要であれば再発行をお願いしましょう。
健康保険に加入している人には、「医療費のお知らせ」という書類が毎年1月〜2月ごろに郵送されます。
この「医療費のお知らせ」には、健康保険を使って受診した医療費が一覧になっており、確定申告の際の証明書類として利用できます。
ただし、12月まですべて記載されいないケースが多いので、記載されていないものは領収書が必要になります。
領収書をすべてそろえるのが大変な場合でも、この書類があれば申告が比較的スムーズになります。
ただし、「医療費のお知らせ」に載っているのは健康保険を使った医療費だけなので、市販薬の購入費や健康保険を適用しなかった診察費は記載されていません。
それらの分は別途、領収書を確認しておく必要があります。
マイナンバーカードを持っている人は、マイナポータルの「わたしの情報」で診療・薬剤・医療費・健診情報が確認できます。
こちらも、1年間のすべてが表示されないことがあるので、その際は領収書等で確認をしてください。
さらに、マイナポータルをe-Tax(電子申告)と連携させると、医療費控除の申請に必要な情報を自動で入力できるため、確定申告の手間を減らすことができます。
医療費控除を受けるためには、確定申告をしなければなりません。
会社員やパート・アルバイトの人も、医療費控除は年末調整では対応できないため、自分で確定申告をする必要があります。
ここでは、医療費控除のやり方について詳しく紹介します。
医療費控除を受けるためには、下記の書類などを用意してください。
医療費控除を申請するには、「医療費控除の明細書」を作成する必要があります。
この明細書には、どの病院で、いくら支払ったのかを記入していきます。
■ 医療費控除の明細書の見本
国税庁のウェブサイトで「医療費控除の明細書【内訳書】」がダウンロードできるので、必要な項目を記入して作成してください。
申告の際は「確定申告書」を作成し、申告する年の翌年2月16日~3月15日※に税務署へ提出します。
最近では、電子申告(e-Tax)を利用してパソコンやスマホからも申告できます。
ただし、還付申告(税金の払いすぎを返してもらう申告)は2月15日以前でも可能なので、早めに申請すると還付金を早く受け取れます。
※3月15日が土・日・祝日に該当する場合は、翌平日まで
参照:政府広報オンライン「令和6年分の確定申告はご自宅から申告できる便利な「e-Tax」をご利用ください!確定申告会場への来場や書類の持参が不要です」
会社員が医療費控除のために確定申告をすると、「ふるさと納税のワンストップ特例」が使えなくなるという点に注意が必要です。
ふるさと納税はワンストップ特例を使うと、確定申告をしなくても税金の控除が受けられます。
しかし、医療費控除を申請する場合は、ふるさと納税の寄附金控除も確定申告で行わなければならなくなります。
そのため、ふるさと納税をしている人は、医療費控除と一緒に申請することを忘れないようにしましょう。
A. 提出の必要はありませんが、自宅で5年間保管が必要です。
以前は、医療費控除を受けるために病院や薬局の領収書を提出しなければなりませんでした。
しかし、現在は「医療費控除の明細書」を作成すれば、領収書の提出は不要になりました。
ただし、税務署から確認を求められることがあるため、領収書は必ず5年間保管しておきましょう。
万が一、税務署から問い合わせがあったときに、領収書を提出できないと控除が取り消されることがあります。
A. 申告を忘れても、5年間は遡って申告できます。
たとえば、2025年に申告し忘れた場合でも、2026年から2030年の間なら申請できます。
その間に申請すれば、払いすぎた税金を取り戻せる可能性があります。
A. 申告後、1〜2ヶ月ほどで振り込まれます。
確定申告が完了すると、税務署で内容が確認され、払いすぎた税金が還付されます。
通常、申告してから1〜2ヶ月後に指定した銀行口座へ振り込まれます。
ただし、確定申告の時期(2月〜3月)は多くの人が申請するため、処理が遅れることもあります。
還付金を早く受け取りたい場合は、できるだけ早めに申告するのがおすすめです。
A. 「セルフメディケーション税制」は、一部の市販薬を年間12,000円以上購入した場合の制度です。
「医療費控除」と「セルフメディケーション税制」は別の制度で、どちらか一方しか選べません。
項目 | 医療費控除 | セルフメディケーション税制 |
---|---|---|
対象となる費用 | 病院・クリニックの診察費、治療費、薬代 | 一部市販薬(風邪薬や頭痛薬など)の購入費 |
控除の対象額 | 10万円(または所得の5%)を超えた金額 | 12,000円を超えた金額 |
利用条件 | 特になし | 定期的な健康診断や予防接種を受けていること |
たとえば、病院での診察費や治療費が10万円以上かかった場合は「医療費控除」を選び、市販薬の購入費が多い場合は「セルフメディケーション税制」を選びます。
また、セルフメディケーション税制の対象となる医薬品には、専用の識別マーク(※)が記載されていることが多いです。
購入する際は、下記のマークを参考にしてみてください。
※共通識別マークは任意表示なので、対象製品であっても一部表示がない製品もあります。
参照:日本一般用医薬品連合会「共通識別マークについて|通知・ポスター等|簡単に確定申告ができる セルフメディケーション税制」、令和6年分 確定申告特集「セルフメディケーション税制とは」
この記事では、「医療費控除」について紹介しました。
申告には少し手間がかかりますが、医療費控除を活用すれば、税金の負担を減らすことができます。
ぜひ、医療費が多かった年は、確定申告を忘れずに行いましょう。
増田 浩美 増田浩美税理士事務所所長
女性ならではのきめ細やかな視点を強みに、企業から個人まで幅広い税務のサポートを行う。 ホームページ:http://www.zeimukaikei.jp/