
労働者派遣法とは?内容や目的、改正の歴史を解説!【社労士監修】
派遣には「3年ルール」という、同じ職場で3年を超えて働くことを制限するルールがあります。
そのため、派遣社員として長く働き続けたい方にとって、この3年ルールは気になるポイントではないでしょうか。
この記事では、派遣法の3年ルールについて、その概要や例外になる条件を詳しく解説します。また、同じ職場で3年以上働くための方法も紹介しています。
派遣法の「3年ルール」とは、派遣社員が同じ職場や部署で働ける期間を最大3年までと決めたルールのことです。
このルールは、2015年に法律が改正されたときに新しく加えられました。
たとえば、2025年4月1日に派遣社員として働き始めた場合、同じ会社の同じ部署では2028年3月31日までしか働けません。
ただし、このルールにも3年を超えて働くことのできるいくつかの例外があります。
例外については、3年以上働ける「例外」の派遣社員のセクションでご紹介します。
ここでは、この派遣法の3年ルールについて、その背景と具体的な対象者を解説します。
3年ルールができる前、派遣社員が同じ会社で長く働きつづけることが一般的になっていました。
しかしその状況がつづくと、企業が本来正社員として雇うはずの人を雇わずに、派遣社員が使われるようになり、正社員といった安定した雇用が減ることが心配されます。
そこで、派遣社員が不安定な雇用で長く使われることの防止や、正社員と派遣社員の雇用のバランスを保つために、3年ルールが設けられました。
さらに、派遣社員が同じ職場で長く働くのであれば、そのまま派遣として働き続けるのではなく、正社員や無期雇用のような安定した雇用形態に切り替えるチャンスを作るのも目的の一つです。
3年ルールはすべての派遣社員に適用されるわけではありません。
対象となるのは、派遣会社と期間を定めた「有期雇用契約」を結んでいる、登録型派遣の派遣社員です。
3年ルールの期間制限には、「事業所単位の制限」と「個人単位の制限」の2種類があります。
この期間制限により、派遣社員個人が実際に3年間働く前に、契約が満了してしまうケースもあるため、注意が必要です。
ここでは、それぞれの期間制限について詳しく解説します。
「事業所単位の制限」とは、1つの職場(事業所)に派遣社員を受け入れられる期間を3年までに制限するものです(派遣法第40条第2項)。
つまり、A工場全体やB支店全体のように職場単位で適用され、同じ職場では派遣社員を3年以上続けて受け入れることはできません。
先にいた派遣社員が長く働いていた場合、その後に同じ職場に来た派遣社員は、働ける期間が短くなることがあります。
派遣先の状況によって、契約が予定より早く終了する可能性があるので注意が必要です。
ただし、会社が労働組合や従業員代表の同意を得ることで、3年を超えて派遣社員を受け入れることも可能です。
その場合でも、延長できるのはその都度3年までです。
「個人単位の制限」とは、同じ事業所内で同じ派遣社員を同じ組織単位で3年を超えて働けないというルールです(派遣法第40条第3項)。
このルールのポイントは、「派遣社員個人に適用されること」と「部署」や「チーム」ごとに制限がかかることです。
たとえば、派遣社員Aさんが「総務課会計係」に配属されている場合、Aさんがその部署で働けるのは3年までです。3年が経過したら異動しなければなりません。
ただし、Aさんが終了した後、別の派遣社員Bさんが同じ「総務課会計係」で働くことは可能です。このように、派遣社員個人に対して3年の制限がかかります。
同じ派遣社員が3年以上勤務を続けるには、異なる部署やチームに移る必要があります。
派遣期間の制限では、個人単位よりも事業所単位の制限が優先されます。
そのため、個人単位では3年未満であっても、事業所単位の制限によって勤務期間が短縮される場合があります。
たとえば、派遣社員Aさんが2024年4月1日から派遣先で働き始め、同じ事業所に2025年4月1日から派遣社員Bさんが加わった場合、Bさんの契約は2027年3月31日までとなります。
このように、自分の勤務期間が3年に達していなくとも、事業所単位の制限が優先され、3年よりも早く勤務が終了する場合がある点に注意が必要です。
ただし、派遣先の会社が労働組合に相談して期間を調整すれば、途中から勤務しているBさんも最大で3年間勤務することができます。
派遣法の3年ルールには、3年を超えて働くことのできるいくつかの例外があります。
例外として扱われるのは下記の条件・状況に当てはまる場合です。
3年が経った時点で60歳を超えている派遣社員には、3年ルールの期間制限は適用されません。
たとえば、59歳で派遣を開始し、3年後に62歳になった場合、3年ルールの対象外です。
60歳以上の方は、働き口が見つけにくく雇用が不安定になりがちです。
キャリアアップよりも派遣社員としての安定した雇用が重視されているため、3年ルールの例外となっています。
派遣元に無期雇用されている派遣社員は、3年ルールの期間制限は適用されません。
無期雇用派遣とは、派遣元である人材派遣会社と期間を設けずに雇用契約を結ぶことです。「常用型派遣」とも呼ばれます。
無期雇用派遣では契約期間に定めがないため、契約更新の必要がありません。
派遣のデメリットである不安定な雇用がなく、安定した雇用が実現できるため、3年ルールの例外となっています。
期限が決まっているプロジェクトで働く派遣社員は、3年ルールの期間制限は適用されません。
プロジェクト業務とは、事業の開始、転換、拡大、縮小、廃止など、一定期間内に完了が予定されている業務のことです。
年数の制限はありませんが、終了時期が明確であることが条件です。
たとえば、新工場の立ち上げ、システムの導入などがこれにあたります。
日数が限定されている業務に従事する派遣社員は、3年ルールの期間制限は適用されません。
具体的な条件は、1か月間の勤務日数が、通常の正規従業員の所定労働日数の半分以下、かつ月10日以下であることです。
たとえば、祝日や休日に開催される展示会やイベントのサポートスタッフ、店の棚卸し業務などがこれにあたります。
このような業務は、そもそも勤務日が限定されているため、長期で働く必要はありません。そのため、3年ルールの例外となっています。
休業中の社員の代替として働く派遣社員は、3年ルールの期間制限は適用されません。
具体的には、派遣先企業で産休や育休、介護休業を取得している社員の代わりに勤務する場合が該当します。
なお、代替要員として派遣される場合、休業中の社員の業務をそのまま引き継ぐ必要があります。業務内容に変更が加えられると、代替業務とはみなされません。
これは、3年という期間の制限が、職場の出産や育児、介護の負担にならないよう配慮されているからです。
気に入った派遣先で3年以上働きたいと考える人は多いでしょう。
実は、派遣の3年ルールによる期間制限を超えても、同じ職場で働き続ける方法があります。
ここでは、同じ職場で3年以上働く方法を紹介します。
派遣先で3年以上働くには、派遣先の会社に「直接雇用」してもらうという方法があります。
直接雇用とは、派遣先企業が直接雇う形で雇用契約を結ぶことです。
派遣元企業と派遣先企業の双方が同意すれば、直接雇用に切り替えることができます。
直接雇用と聞くと「正社員」をイメージしがちですが、「直接雇用=正社員」とは限りません。
契約社員やパート、アルバイトなども直接雇用に含まれる点には注意しましょう。
派遣社員時代より条件が悪くなってしまう可能性も0ではありません。
不利な条件とならないよう、しっかりと契約内容を確認してから直接雇用に切り替えるか判断してください。
無期雇用の派遣労働者になることで、3年ルールの対象からはずれ、派遣先を変えずに働きつづけることができます。
無期雇用派遣社員になっても、同じ部署で働き続ける義務はなく、部署異動も自由です。同じ部署でも、異なる部署でも勤務が継続できます。
ただし、無期雇用に切り替えると、派遣先企業に直接雇用される可能性が低くなるデメリットもあるので、切り替えは慎重に検討しましょう。
また、無期雇用であっても、派遣先の都合で3年以内に勤務が終了する場合もあります。
個人単位の期間制限では、同一事業所の同一部署での就業は、最大3年です。
これは、見方を変えると、別会社内の別の部署へ移動すれば、また新たに3年間働くことができるとも言えます。
異動をする際は、派遣元企業の同意を得て、新しい派遣契約を結ぶことが必要です。
ただし、同じ事業所で3年を超えて派遣社員を受け入れるためには、「事業所単位の期間制限」を延長する手続きが取られていることが条件となります。
部署を変えることで仕事の内容が変わることもあるので、移動するかどうかは慎重に考えましょう。
「クーリング期間(空白期間)」を空けることで、通算期間をリセットすることができます。
クーリング期間は、3か月と1日以上必要です。
たとえば、現在の部署で3年の期間制限に達した場合、3か月と1日以上空ければ、同じ部署に戻って働くことが可能です。
ただし、空白期間中は仕事や収入が途切れる可能性があります。
この方法を選ぶ際は慎重に検討するようにしましょう。
「5年ルール」は、名前が似ているため3年ルールと間違いやすいですが、異なる制度です。
5年ルールは、同じ会社で5年以上働いた人が、自分から申し出ることで、一定の期間で契約が終わる有期雇用から、期間の定めがない無期限の契約に転換できるルールです。
「無期転換ルール」や「契約社員5年ルール」とも呼ばれ、労働者が申し込むと、企業は断ることはできません。
3年ルールと5年ルールの大きな違いは、対象となる人です。
3年ルールは「派遣社員のみ」が対象ですが、5年ルールは契約社員やアルバイト・派遣社員など「有期契約で働くすべての人」に適用されます。
参照:厚生労働省「無期転換ルールについて」
この記事では派遣法の3年ルールについて詳しく解説しました。
派遣法の3年ルールは、同じ職場での勤務が3年を超えないようにする制度です。そのため、派遣社員は3年後には新たな働き方を考える必要があります。
働き方の選択肢が多様な時代だからこそ、3年ルールをしっかりと理解し、あなたの希望に合った最適な働き方を見つけましょう。
荒武 慎一(あらたけ しんいち) 社会保険労務士、中小企業診断士
昭和53年同志社大学卒業、富士ゼロックス株式会社を経て平成27年アラタケ社会保険労務士事務所を開設。助成金セミナーを各地で開催し、難解な助成金をわかりやすく解説することで高い評価を得ている。(連絡先:0422-90-9990)