
無期転換ルールについて|内容や対象者、申し込み方法からメリット・デメリットまで解説!【社労士監修】
1986年に労働者派遣法が施行されたことが、日本の派遣の歴史の始まりです。
その後も時代の変化に合わせながら、派遣社員の権利や働き方を守るために、現在まで何度も改正されてきました。
この記事では、派遣法とは何かから、その目的、改正の歴史やおさえておきたい出来事を解説します。
さらに、派遣の種類とメリットについても紹介するので、派遣という働き方が自分に合っているか、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
「派遣法」とは、派遣事業の正しい運営と、派遣労働者の取り扱いについて定めた法律です。
正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律※」といいます。
1986年にこの法律ができたことで、派遣という働き方が始まりました。
派遣のメリットは、自分のライフスタイルに合わせて柔軟に働けることですが、一方で正社員と比べて雇用が不安定になることがデメリットと言えます。
派遣法は時代や社会の変化に合わせて、派遣社員がより安定して働けるように、何度も改正されています。
※平成24年10月1日に「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」」から変更されました。
派遣法は、派遣労働者を保護し、安心して働ける環境を整えることを目的として施行されました。
派遣法ができる前、職業紹介事業や労働者供給事業の一部では、労働者が不当な扱いを受けることが問題になっていました。
たとえば、強制労働や不当な中間搾取をされるようなケースです。
派遣法はこうした問題の解決と、正社員の代わりとして派遣社員を安易に使うことを防ぐ「常用代替防止」の考え方を基本にしています。
また、サービス業の拡大や働き方の多様化が進み、企業側では臨時的・一時的な労働力の需要が増え、働く側にも柔軟な働き方のニーズが生まれました。
派遣法は、こうした社会の変化に対応しながら、派遣社員が安心して働ける仕組みをつくるためのルールとなっています。
派遣制度がつくられる1986年までは、人材派遣は法律で認められていませんでした。
雇用関係にない人へ業務を依頼するには、業務請負という形をとっていました。
派遣制度は、ソフトウェア開発や事務機器の操作などの、特別な知識が必要な16種類の仕事に限られる形でスタートします。
しかし、その後派遣の仕事の種類は増えていき、企業側も派遣社員を使うことが多くなっていきます。1999年には、ほとんどすべての業務で派遣労働が認められるようになりました。
その後も時代の変化に合わせて、現在まで何度も改正されています。
派遣法の主な改正の概要を以下にまとめます。
年 | 改正の概要 |
---|---|
1986 | 労働者派遣法施行 ・派遣労働が法的に認められる ・一部の技能に限定された13業務(同年に16業務に変更)が対象 |
1996 | 対象業務を26業務に拡大 ・正社員で代替できない専門性の高い業務を中心に拡大 |
1999 | 派遣対象業種の拡大 ・派遣業種が自由化され26業務以外も可能になる ・26業種は3年、自由化業務は最長1年の期間制限 ・派遣禁止の業務がリスト化される |
2000 | 紹介予定派遣の解禁 ・派遣先企業への直接雇用を前提とした採用システムが開始 |
2004 | 派遣期間の緩和・物の製造業務 ・1999年に解禁された業務は3年に延長 ・26業種の派遣期間は無制限になる |
2006 | 医療業務の一部で派遣解禁 ・派遣が禁止されていた医療関係業務の一部が解禁 |
2007 | ・製造業務の派遣期間を3年に延長 |
2012 | 労働者を保護するため規制強化 ・政令26業務が28業務に整理・拡充 ・日雇い派遣の原則禁止など事業規制が強化 |
2015 | 雇用安定・キャリアアップのための改定 ・全労働者派遣事業が許可制に ・政令業務含む派遣期間を3年に制限(3年ルール) ・賃金情報提供や均衡待遇の義務 ・派遣終了時に雇用安定措置を義務化 ・派遣元に教育訓練とキャリア相談を義務化 ・派遣先に能力情報の提供努力義務 |
2020 | 働き方改革による改定 ・同一労働同一賃金の実現 ・労働条件・賃金などの確認・照会の徹底 ・「3年ルール」の希望聴取の義務化 |
2021 | 雇用安定のための改正 ・雇用安定措置の希望聴取の義務化 ・マージン率等のインターネットによる開示の原則化 |
このように、社会の流れやニーズに対応すべく、多くの改正が実施されてきました。
そして、これからも改正される可能性はゼロではありません。
派遣社員として働くときには、自分の権利を守り安心して働くためにも、派遣法を理解しておくことが大切です。
ここでは、派遣社員として働く上でおさえておいてほしい、大きな出来事について解説します。
2008年のリーマンショックによる経済不況の影響を受けて、派遣社員が仕事を失う「派遣切り」が大量に起こりました。
これは、契約期間が短く調整しやすい派遣社員を、企業が人件費削減の対象にしたことが原因です。
特に派遣社員が多く働いていた製造業の現場を中心に、大量の派遣切りが社会問題となりました。さらに一部の派遣社員は企業の寮に住んでいたため、仕事と同時に住む場所を失う人も多く、社会的に大きな影響を与えました。
この出来事を通じて、派遣社員の雇用がいかに不安定であるか、また、それを支える仕組み(セーフティネット)が不十分であるかが明らかになりました。
2012年には、派遣社員を守るための規制が強化されました。
この改正では、派遣労働に関する以下のようなルールが追加されました。
30日以内の契約で派遣社員を雇うことを原則的に禁止(一部例外を除く)
以前その企業で働いていた人を派遣として戻すことを禁止
親会社と子会社間の派遣を厳しく制限
派遣会社が利益率(マージン率)を公開することを義務化
これにより、派遣社員が不安定な立場に置かれにくくなるような仕組みが整えられました。
参考:厚生労働省「日雇派遣の原則禁止について」、「離職後1年以内の労働者派遣の禁止について」、「グループ企業内派遣の8割規制について」
2015年には、派遣社員の雇用を安定させるための大きな改正が行われました。
その中で、特に大きな変更は「派遣3年ルール」です。
このルールは、派遣社員が同じ職場で働ける期間を最長3年に制限するものです。
基本的に派遣は、臨時的・一時的な働き方という考えのもと、さまざまな仕組みが作られています。
そのため、派遣社員が正社員の代わりとして長期間使われることを防ぎ、一定の期間の後にキャリアアップの機会を増やすためにこのルールが作られました。
また、以下のような変更も行われました。
派遣事業を行うには国の許可が必要となる
派遣期間が終了した派遣社員に新しい仕事を紹介することを義務化
派遣社員がスキルアップできるよう、派遣会社に研修やキャリアコンサルティングを提供することを義務化
2020年には、働き方改革の一環で、正規雇用(正社員など)と非正規雇用(派遣社員やパートなど)の格差を解消する動きが進められます。
導入されたのは、「同一労働同一賃金」という新しい仕組みです。
これは、同じ業務内容であれば、正社員と派遣社員の間で、給与や手当、福利厚生なども同じであるべきという考え方です。
しかし、単純に派遣先企業の待遇に合わせると、派遣先が変わる度に待遇が変わってしまう恐れがあります。
そのため、派遣社員には「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のどちらかの方式によって、公正な待遇を保証することが定められました。
派遣先の労働者の待遇に合わせる考え方。職務内容と配置の変更範囲が同じ場合は、正社員との不合理な待遇差を禁止する。
派遣会社と派遣スタッフの間で、労使協定を結んだ上で賃金を合意する。
参考:厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
2021年には、派遣労働者がより安心して働ける環境を整えるため、雇用の安定や情報提供に関する新しい義務が追加されました。
派遣会社を選びやすくするため、派遣会社に情報をインターネットで公開することを義務化
継続を希望する有期雇用の派遣社員に、以下のいずれかを実施することを義務化
派遣先企業にも派遣社員からの苦情を受け付けることを義務化
日雇派遣社員の過失ではなく途中解除した場合、就業機会の確保、もしくは休業手当を支払うことを義務化
参考:厚生労働省「キャリアアップ措置や雇用安定措置等の派遣元の責務が強化されます」
派遣労働者は幅広い業種で活躍していますが、現在でも一部の業務は派遣での就業が禁止されています。
これらの業務は、危険性や求められる専門性が非常に高いため、派遣社員を使うことが認められていません。
また、2012年の改正にあるように、正社員や契約社員、アルバイトとして働いていた職場で、離職後1年以内に派遣社員として戻って働くことは禁止されています。
参考:厚生労働省「労働者派遣事業について|派遣で働くときに特に知っておきたいこと」
人材派遣には「登録型派遣」「紹介予定派遣」「常用型派遣」の、雇用期間や待遇などが異なる3つの契約の形があります。
派遣社員として自分に合った働き方を選ぶためには、この3つの派遣の種類について理解しておくことが大切です。
「登録型派遣」は、派遣会社に登録したあと、派遣先企業で働いている間だけ、派遣会社と雇用契約が結ばれます。
そのため、派遣先での勤務が終わると次の派遣先が決まるまでは、派遣会社との間には、雇用関係も給与も発生しません。
登録型派遣は、自身のライフスタイルやキャリアプランなど、希望に合わせて働きやすいのが特徴です。未経験から始められるものから、専門スキルを活かせるものまで幅広い仕事があります。
「紹介予定派遣」は、派遣社員として働いたあとに、派遣先企業で直接雇用されることを前提に契約が結ばれます。
派遣社員として働く最長6ヵ月の間に、企業と派遣社員がお互いに適性を見極めます。
この方法は、採用後のミスマッチが発生しにくいという点がメリットです。
「無期雇用派遣」は、派遣社員と派遣会社が、契約の終了期間を決めずに雇用契約を結びます。
つまり、派遣会社の無期雇用社員となり、派遣先企業へ派遣されます。
派遣先での勤務が終了しても派遣会社との雇用関係は続くため、安定した収入を得ることができます。
また、有名企業での経験を積めたり、正社員と同じように昇給や福利厚生が受けられるのもメリットです。
これらの派遣社員の契約の種類については、以下の記事でくわしく紹介しています。
ここでは、派遣社員として働くメリットを紹介します。
派遣社員は、勤務地や勤務日数、時間、職種など、働き方の条件を自由に選びやすいのが大きな特徴です。
また、勤務時間や勤務日数は事前に契約で決められるため、急な残業や休日出勤を頼まれることはほとんどありません。
さらに、子育てや介護などで働ける時間が限られている人でも、自分のライフスタイルに合った働き方を実現しやすいのもメリットです。
正社員や専門的な職種の求人では、経験者限定の場合も多いですが、同じ仕事でも派遣であれば未経験から挑戦できる求人があります。
さらに、テレビ業界・マスコミ、ファッション業界、クリエイティブ系、製薬、食品業界の研究職など幅広い仕事があります。
また、派遣の仕事を通じて新しいスキルを身につけることで、さまざまな経験を積んで、キャリアアップを図ることができます。
派遣社員の時給は、パート・アルバイトと比べると高めに設定される傾向があります。
これは、派遣会社が採用や研修にかかるコストを企業の代わりに負担していることや、派遣社員は繁忙期などの人手がほしい時に採用しているといった背景があります。
求人によっては、派遣社員が正社員よりも高給となるケースもあります。
派遣社員には、派遣会社からさまざまなサポートを受けられるというメリットがあります。
たとえば、自分のキャリアプランを相談しながら仕事を探したり、無料でスキルアップ研修を受けたりすることができます。
また、派遣会社は一般には公開されていない非公開求人を保有していることがあり、登録することでそうした求人に応募できることもあります。
さらに、仕事中にトラブルが起きた場合、派遣会社が間に入って問題を解決するために動いてくれるため、安心して働ける環境が整っています。
本記事では、派遣法の内容や目的、改正の歴史、派遣での働き方の種類とメリットについて解説しました。
派遣法は、派遣社員を保護し、安定して働ける環境を守るための法律です。
派遣として自身のライフスタイルに合った求人や契約を選び、新しい可能性を広げていきましょう。
荒武 慎一(あらたけ しんいち) 社会保険労務士、中小企業診断士
昭和53年同志社大学卒業、富士ゼロックス株式会社を経て平成27年アラタケ社会保険労務士事務所を開設。助成金セミナーを各地で開催し、難解な助成金をわかりやすく解説することで高い評価を得ている。(連絡先:0422-90-9990)